論文┃第3章 法定外税の動向③
第3節 特徴と問題点
1.特徴
地方税原則の一つである「応益負担原則」に関する見解として、地方団体の行政サービスを受ける者は応分の負担をすべきであるとの趣旨により、その際における租税の活用として法定外税を導入することについては既に述べたとおりである。
上記表3からも明白な通り、現時点では、原因者負担金的または受益者負担金的租税や、生活の便益に過ぎない受益に着目した対価的負担、さらには行政上の義務履行確保の一手段として活用できることに力点を置いたものが目立ち、これら新税は自主財源確保に対する首長の積極的な姿勢をアピールするために、あるいは、環境保護などの政策的なシンボルとして、それぞれ導入され、または導入が検討されているという側面が強いように思われる。その特徴として、①大半が当該地方団体外に所在する者を納税義務者としていること、②受益と負担の関係が必ずしも明確でないこと、③環境税のように、課税客体が明確でないこと、④租税以外の方法での徴収を問わなければならないもの、のように課税の公平や担税力の観点からみて、納税者の権利を侵害し、これと衝突する恐れのあるものも見受けられる。これら法定外税に対する批判として、中里は、①域内の住民に課税しないで域外の者に課税する、②個人に課税しないで法人に課税する、③地方税法に定められた要件のみを形式的にクリアすることに熱心なあまり憲法や基本的な法原則を必ずしも十分に考慮しない、という3つの顕著な特徴があると提示している 。
例えば、神奈川県の「臨時特例企業税」は、欠損金の繰越控除によって、応分の負担をしていないとみられる法人に対して相応の負担を求めようとするものである。資本金等5億円以上の法人の法人事業税の課税標準である所得の計算上繰越控除欠損金額を損金の額に算入しないものとして計算した場合における所得の金額に対して、繰越欠損金額を限度として3%(特別法人については2%)の税率で課税するものである。また、東京都の「宿泊税」は、宿泊料金1泊1万円以上1万5千円未満の宿泊につき100円、1泊1万5千円以上の宿泊につき200円の税率で課税するもので、観光振興の財源に充てる目的税である。これらの税について、それぞれに問題があることは否定できない 。確かに、これらの点においては上記批判に対する共通性は存在するが、これら3つの要件をもって、法定外税の可能性を否定することはできない。なぜなら、現在、地方団体が課税権を行使する余地は、超過課税と法定外税に限られているからである。
2.租税の名称と実質
地方財政の基礎は、あくまでも基幹税を再配分することによって確立すべきであり、法定外税は、そうした地方税の基幹税を補完するにとどめなければならない とシャウプ勧告を教訓として、そのような意見がある。こうした補完税として、環境関連税が多数みられる。法定外税として産業廃棄物税等、環境関連税を課税する場合、2つの目的ないし論拠が示されている 。
第一は、環境に負荷を与える行為や財に対して、税負担を求めることによって、環境の悪化を抑制するものである。この場合には、財源の確保が目的ではなく、最終的には、環境に負荷を与える行為が減少し、税収が最少になることが望ましいということになる。例として、杉並区「レジ袋税」は、その第1条において、「廃棄物の減量、リサイクルの推進その他環境の保全に係る施策に要する費用に充てるため、地方税法に基づいて、買物等の際に譲渡されるレジ袋にすぎなみ環境目的税を課し、レジ袋の使用抑制を図ることを目的とする」と謳っている。
第二は、純粋に環境対策に充てる財源を確保するための法定外税である。もちろん、環境に負荷を与える行為の抑制目的を併有することを妨げるものではない。例えば、三重県の産業廃棄物税条例第1条は、「産業廃棄物の発生抑制、再生、減量その他適正な処理に係る施策に要する費用に充てるため、産業廃棄物税を課する」と定めて、専ら財源の確保を目的としているようにみえる。しかし、各方面からの発表により、産業廃棄物の発生抑制、リサイクル促進の効果をも期待されているようである。これら、産業廃棄物に係る法定外税については、第4章にてそれぞれ検討することとする。
ここで、財源の確保を目的とするか否か、いずれにせよ、税形式での徴収の妥当性について検討する必要があると思われる。租税の賦課は、公権力の行使であり、住民等に対して強制力を持つ。租税が公平性を根拠として課税されるといっても、その利益は一般報償であって、個別報償ではない。仮に、後者の場合であれば、課徴金により徴収すべきこととなる。わが国では、課徴金として、①使用料・手数料、②分担金、③負担金の3つが用意されており、さらに、負担金は、①受益者負担金、②原因者負担金、③損傷者負担金に細分される。特に環境関連税の場合、上記第1の趣旨、すなわち、環境阻害的取引の抑制を目的とする法定外税は、制裁的課税としての批判があり、財源確保を目的とする地方税の趣旨に反するとの見解も可能となる。しかし、地方自治法に定める地方団体の収入類型においては、地方税と課徴金の明確な区別に関する規定が存在しない ため、多少なりとも財源の確保を望めるのであれば、それは、法定外税として創設できる可能性があると考えられる。
3.税制のグリーン化と法定外税
現在、OECDによる環境税に係る議論や財務諸表への環境情報の表示化等の観点から、地球環境に高い優先順位をつける考え方が有力となりつつある。そこで、租税法の基本原則として租税法律主義や公平原則と並んで、環境との統合を列挙しなければならない と叫ばれている。しかし、環境税の定義については、現在のところ定まった見解は存在しない。一般的には、環境税の概念として、環境阻害的な取引を選択すると、外部費用を負担することになり、そうすると、そうした取引は経済的に不利益となることから、そのような取引を選択しなくなる。換言すると、環境税は、環境阻害的な取引に対して抑制的に働くとされている。
OECDでは環境税の定義として、環境政策手段としての租税の利用全般を対象にしている。また、中里は、租税法の観点から環境税について、「『環境税』とは、租税制度を用いた環境政策ではあるが、法的にはあくまでも租税制度の一部なのであるから、そうである以上、そこにおいてはあくまでも租税の原理、租税法の原則を無視してはならない。環境分野の原則だけが重要で租税法の原則に縛られたくないというのであれば、租税制度を利用しないことである。例えば、環境関係の方々は、ピグー税という『租税』は当然に許されると考える場合が多いようであるが、ピグー税のごとき税収を上げることを必ずしも目的としない租税が果たして租税といえるか否かは、そう簡単に決められることではない。すなわち、ピグーが『租税』と名付けたからといって、あるいは、財政学でそれを『租税』と呼んでいるからといって、それが法的にも自動的に租税になる(『租税』として認められる)とは限らない。ましてや、純粋のピグー税を、現在の地方税法の法定外税の枠組みの中で導入できるか否かという点については、そう簡単に結論の出る話ではない。そして、ピグー税的な課税であれ、純粋なピグー税ではない何らかの環境関連の租税であれ、新税をどうしても実体法上『租税』として構成したいのであれば、租税法の原則に従わなければならないことは当然であろう 」との見解を示している。
この場合、収入を目的としない金銭負担、すなわち、環境阻害的取引の抑制を目的とする法定外税について、「租税」として構成しうることが妥当であるかが問題となる。しかし、先にも述べたとおり、収入が多少なりとも見込める点、あるいは、今日の環境に高い優先順位を付ける社会情勢を考慮すると、そのようなものであっても、「租税」として構成して差し支えないように思われる。さらに、自動車税の不均一超過課税にみられるように、環境と租税の統合は、一部実現を見ている。それが租税法原則の一つを構成するには至っていないが、次第に統合されつつあるといえるのではないだろうか。
※41 「実務者サイドから見た法定外税の“採点簿”」『税』57巻9号,2002年,53頁.
※42 神野直彦「痛みを伴う地方税制とそのあり方―分権時代の課税自主権を考える」『税』57巻4号,2002年,8頁.
※43 碓井光明「動き始めた自治体独自課税」『判例自治』225号,2003年,4-5頁.
※44 村井正「環境税と法定外税―制裁的課税が抱える課題等を考えるにあたって」『税』57巻10号,2002年,19頁.において次のように述べている。「租税と課徴金の区別は、そう明確ではない。従来宅地開発要綱による宅地開発負担金として課されていたものが、宅地開発税として課税されたことがある。この場合、両者の要件は全く同じでありながら、呼称だけが異なるのである。両者の区別は、強いて言えば、その根拠法規が異なるだけである。その意味では租税を使うか、課徴金を使うかは、法形式の問題にすぎない。」
※45 村井・前掲注44,7頁.
※46 中里実「地方環境税のあり方について」『税』57巻1号,2002年,30-39頁.