論文┃第1章 地方税財源の現状と推移②
第1章 地方税財源の現状と推移 ②
第2節 国と地方の枠組みの変化
現行の地方税体系は、シャウプ勧告の理念を出発点としながら、税収の確保という現実的な要請や中央集権システムの再構築、戦後の経済混乱の影響等によって、その理念からは大きく乖離しながら形成されてきた。この現行地方税法は、戦後半世紀にわたって充分に機能してきたと思われるが、最近の社会経済状況の急激な変化に伴い、その機能を再構築させることを考えなければならなくなってきている。その際、「地方分権の推進」を前提として、地方団体の課税自主権について思慮しなければならない。
従来、地方団体は、地方税法に定められている事業税、住民税、固定資産税等の法定税目の他には、法定外普通税を課税することができた。この法定外普通税を制定するには地方団体が自治大臣(現総務大臣)に許可申請を行い、自治大臣が当該申請に係る届出の許可をすることがその要件として定められていた。
ところが、地域の発展と共に地方分権がより望ましい体制であるという民意の高まりから、地方分権の推進については、平成7年5月に地方分権推進法が成立し、同年7月に地方分権推進委員会が発足して以来、大きく躍進してきた。地方分権推進委員会の累次にわたる勧告を受けて、平成10年5月には地方分権推進計画が、平成11年3月には第二次地方分権推進計画がそれぞれ閣議決定され、地方分権の推進を図るために必要な法制上または財政上の措置その他の措置を講ずることを要請する事項が策定された。この中で、地方税に関しては、地方団体の課税自主権を尊重するための地方税の充実確保が盛り込まれていた。
この地方分権推進計画を受けて、「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」(以下、「地方分権一括法」という)が平成11年に成立し、翌年4月1日から施行されている。地方分権一括法は、国および地方団体が分担すべき役割の明確化、機関委任事務制度の廃止とそれに伴う事務区分の再構成、国の関与等の見直し、権限移譲の推進、必置措置の見直し、地方団体の行政体制の整備・確立、をその内容としている。
地方分権推進計画では、地方分権の意義として「変動する国際社会への対応」、「東京一極集中の是正」、「個性豊かな地域社会の形成」、「高齢化社会への対応」を掲げている。そして、地方分権を推進することにより住民にコスト意識を植え付け、必要な公共サービスが適切に提供される効率的な行財政制度の確立が期待できることとなる。
この地方分権一括法の施行に伴い地方税法の改正が実施され、従来の法定外普通税の他に、住民の受益と負担の関係が明確になり、課税の選択の幅を広げるとの観点から法定外目的税の創設が新たに認められることとなった。また、同時に、法定外普通税については、国の関与の見直しが行われ、従来の自治大臣の許可制度を廃止し、同大臣の同意を要する事前協議制へと改められた。協議では、書面主義の原則、手続きの公平・透明性の確保、事務処理の迅速化、を原則とされた。この協議による不同意要件としては、第一に、「国税又は他の地方税と課税標準を同じくし、かつ、住民の負担が著しく過重になること」、第二に、「地方団体間における物流に重大な障害を与えること」、第三に、「国の経済施策に照らして適当でないこと」、が規定されている。
なお、地方団体が不服があると認める場合、当該地方団体は国地方係争処理委員会に審査の申し出を行い、国地方係争処理委員会は関与が不適当であると認めるときは、総務大臣に対して勧告を行うことができることとされている。
このように地方団体は、法定外普通税に加えて新たに法定外目的税が課税できることとなり、課税の選択の幅がある程度拡大したと考えられる。同意には、協議制を敷いているが、法定外税は地方団体が独自に条例を制定して課税するものであり、地方団体の独自財源の確保には一定の機能を持つことは期待される。また、地方議会の審議を経て条例は制定されることから、新税を導入する場合、住民の理解を得るためには説明責任が必要とされ、住民参加型の地方行政が確立されることを期待される。
ところで、地方分権推進委員会においては地方税源について、「国庫補助負担金の整理合理化と地方税財源の充実確保」を謳っている限りであり、これまでのところ課税自主権の尊重の観点から、個人市町村民税の制限税率の廃止や、前述の法定外税に係る制度の確立が行われてきている。政府税制調査会中期答申「わが国税制の現状と課題─21世紀に向けた国民の参加と選択─」においても、前述の推進計画を受ける形で「地方分権と地方税財源の充実確保」の方向性を述べており、地方行政サービスと地方税による負担は「負担分任性」と「応益性」を有する税制であるべきとし、また、望ましい地方税体系として、「税源の偏在性が少なく、税収の安定を供えた地方税体系」および「課税自主権の活用」を強調している。
しかし、ここでは地方税体系の大幅な見直しの具体策については触れられておらず、「現在の危機的な財政状況の下では、国と地方の税源配分の在り方について見直しを行うことは現実的でない」としている。
地方分権のさらなる推進のためには、地方税財源の拡充が必要不可欠であると考える。その際には、地方団体が地域住民の意思決定に基づいて自ら地域社会から調達する自主財源の拡充が最も重要であろうことは、多方面から指摘されている。法定外税の課税実績は、平成11年度決算ベースで19団体212億円であったものが、平成13年度決算では、288億円となっており、さらに既に同意・実施済みのものが平年度化された際の税収見込みと併せると、34団体389億円と大幅に増加してきている。然るに、地方団体の自主財源確保のための法定外税については、ある程度の効果を期待することができると考える。