役員退職金の損金算入時期:その②
役員退職金を分割支給した場合の損金算入の可否について
以前の記事で、役員退職金の支給について、「時期」「金額」の留意点をご紹介しました。
>>節税を目的とした「役員退職金の支給」はこちら
>>「役員退職金の損金算入時期:その①」はこちら
新たに成された判決を取り上げて、役員の分掌変更が行われた場合の役員退職金の損金算入時期についてご紹介いたします。
※参考:平成24年(行ウ)第592号・27年2がつ26日判決・確定
分割支給退職給与の損金算入時期について
概要
原告(法人)は、代表取締役から非常勤取締役へと分掌変更をした役員へ、取締役会にて
● 総額:退職慰労金2億5,000万円
● 支給時期:3年以内に分割支給
する旨を決議した後、分掌変更が行われた事業年度とその翌事業年度に分割支給し、それぞれの事業年度において損金経理をして損金算入をしていました。
争点
法人税基本通達9-2-28ただし書きにより、分割支給年度に損金算入できるか否かが争点となりました。
退職した役員に対する退職給与の額の損金算入の時期は、株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度とする、ただし、法人がその退職給与の額を支払った日の属する事業年度においてその支払った額につき損金経理をした場合には、これを認める。
結論:東京地裁の判決
“退職”の及ぶ範囲について
法人税法34条1項と法人税基本通達9-2-28の「退職給与」と「退職した役員」の文言には、完全に退職した場合だけでなく役員としての地位や職務内容が激変し、実質的には退職したと同様の事情にあると認められる場合も含まれる、とされました。
したがって、分掌変更に伴う役員退職給与にも、法人税基本通達9-2-28ただし書きの適用が及ぶことになります。
役員退職給与の計上時期について
費用の計上は、一般に公正妥当と認められる処理基準に従うべきであるとし、
● 分割支給は、資金繰りの関係上、企業が採用することのある会計処理の一つである。
● 多数の税理士等が、自らのウエブサイトにて法人税基本通達9-2-28ただし書きを用いた分割支給の処理を紹介している。
● 確立した会計慣行の一つである。
との判断に基づき、分割支給年度それぞれの損金算入を認める判決を行いました。
今後の対策を踏まえての留意点
この判決により、分掌変更に伴う役員退職給与の分割支給が行われた場合でも、法人税基本通達9-2-28ただし書きを根拠にそれぞれの年度の損金算入が認められるケースが明らかになりました。
但し、「退職給与の総額」と「支給の終期」があらかじめ定められていることが条件になります。
分割支給の際には、この条件を満たすような配慮が必要となってきます。