役員借入金と相続財産
役員借入金とは
中小企業が資金調達を行う手段の一つとして、代表者個人の資金を融通する方法があります。これを「役員借入金」といいます。
この役員借入金については、多くの場合、金融機関からの融資と違い返済計画の作成は行われません。
また、金利についても支払われないのが通常であります。
ある程度の資金に余裕ができた時点で、少しずつ返済しているのではないでしょうか。
役員借入金が多額になると・・・
上記の様に、役員借入金はある程度使い勝手が良いなどの理由から、貸借対照表上に、どんどんと膨らむ(金額が多額になる)会社が多く存在します。
しかし、この状態が続くと、思いもよらぬ税金が発生する場合もあります。
役員借入金は、会社側からすると役員個人に対する「債務」とされます。
つまり、他の金融機関等からの融資と同様に「返済義務があるもの」として認識されます。
これをもう一方の側面から見た場合、つまり、お金を貸した役員個人のサイドから見た場合、会社に対する「債権」として認識されます。
この状態で、役員個人に相続が発生した場合、当然に相続財産として相続税の対象となります。
例え、会社が債務超過である場合でも、帳簿価額がそのまま相続財産として評価されることとなります。
役員借入金の解消方法
(1)役員報酬の代わりに役員借入金の返済を行う
最もオーソドックスな方法となります。
例えば、役員に毎月100万円を支給する場合、役員報酬を50万円、役員借入金の返済を50万円として設定します。
この場合、月額の支給総額に大きな差はありません(一部、源泉税や社会保険料の金額が相違します)。
しかし、役員報酬としての「損金」が減少しますので反射的に所得が増加します。つまり、法人税の負担が増すこととなります。
法人税だけに着目するのではなく、所得税や相続税等も串刺しにして設計図を描く必要があります。
(2)役員借入金を贈与する
贈与税の非課税枠110万円を活用して、役員個人から他の者へ贈与を行います。
年数という「時間軸」を上手く利用することにより財産を移転することができます。
但し、他の相続財産との兼ね合いもありますので、積極的には活用できません。
(3)その他の方法
その他の方法として、役員個人が債権を放棄する方法があります。
個人から法人への贈与という概念は存在しませんので、役員個人サイドでの課税関係は生じません。
他方、法人サイドでは、「債務の免除を受けた」ことになりますので、免除を受けた債務額相当額の益金が生じます。つまり、法人税の課税対象となります。
また、場合によっては、債務免除を受けることにより、会社の株価が上昇する可能性も考えられます。
そうすると、債権放棄した役員である株主から、他の株主へ「みなし贈与」が認識され、他の株主に対して贈与税課税が生ずる可能性も考えられます。
この他、役員借入金相当額を資本に振替える方法も考えられます。DESといわれる方法ですが、あまりポピュラーではありません。
この様に役員借入金は使い勝手が良いという反面、その金額が多額になると、その解消にはかなりの困難を伴うものになります。
急場しのぎでの役員借入金の活用は良しとしますが、計画性なき役員借入金は、後々、会社経営、個人財産に影響を及ぼすため慎重に行動する必要があります。