法人成りにおける資産の引き継ぎ:車両
法人成りとは!?
個人事業を法人組織に変更することを「法人成り」または「法人化」といいます。
法人税と所得税とのバランス、対外的なイメージ戦略、その他を考慮して、法人成りを行う方は増えています。
法人成りの手順としては、今まで個人として営んできた事業に係る資産・負債を法人へ譲渡する手続きから始まります。
前日の9月30日現在において、
● 商品 : 100万円
● 売掛金: 10万円
● 買掛金: 50万円
があったとします。
この場合、法人は、「100万円 + 10万円 – 50万円 = 60万円」で、個人事業主から資産・負債を買い取ることになるのです。
そこで、法人が買い取る価額が税務上の問題となります。
法人税の基本は「時価取引」となるからです。
上記のような商品(売れ残りの在庫を除く)や、売掛金、買掛金であれば、帳簿価額がそのまま時価として通用します。
車両があった場合は、どのようになるのでしょうか。
今回は、法人成りにおける車両の引継ぎに関して、3パターンご紹介いたします。
法人成りにおける車両の引継ぎ
(1)個人から法人への譲渡
最もオーソドックな方法として、個人から法人への譲渡が挙げられます。
この場合、法人に名義変更する必要があります。
引継ぎ価額は、時価となります。
税務上、時価の概念は複雑になっていますが、第三者の買取価額を基本に検討すると間違いは起こりません。
例えば、中古車査定における価額を時価として設定すれば良いことになります。買取価額と店頭販売価額の二通りの「時価」が存在することになりますが、これについてはその時々の状況に応じて決めて行くほかありません。
(時価と帳簿価額との乖離が少ない場合は、帳簿価額でも差し支えない場合もあります。)
法人に名義変更することにより、引き継いだ車両の減価償却費を経費として計上することができます。
これ以外にも、ガソリン代、自動車税、保険料、車検代などのランニングコスをも法人の経費として計上することができます。
なお、減価償却費の計算においては中古資産の耐用年数が適用されますので、早期の費用化が可能となり、節税対策にもなります。
>>中古資産の耐用年数の計算については、こちらをご覧ください。
(2)個人と法人との間で賃貸借契約を締結する
法人への名義変更が困難な場合、特に、保険料の等級が問題になるケースがあります。
この場合には、個人と法人との間で車両の賃貸借契約を締結します。
そうすることにより、名義は個人のままで、当該車両を法人に貸し付け、法人の事業に使用する、ということになります。
この場合、法人では、ガソリン代や個人への賃借料が経費として計上することができます。
但し、表裏の関係となるため、賃料を受け取った個人では、「雑所得」として確定申告の必要が生じてきます。
(3)個人と法人との間で使用貸借契約を締結する
使用貸借とは、無償で貸し借りすることをいいます。
本来、法人は経済取引を行う団体であるとの見地から、無償での経済取引は認められません。
ただ、車両に関しては金額も僅少であり、課税上弊害もないと考えられることからそのような処理も慣例的に認められています。
但し、あくまで個人の車両であるため、法人での使用分、個人での使用分、を明確に区分しておく必要があります。
いずれにせよ、どのような形でも、個人の車両を法人の事業で使用することは可能となります。
税務調査では資産の所在や使用実態その他を追及してきます。
したがって、名義変更であれば時価の明細を、賃貸借や使用貸借であれば、契約書その他使用実績等の書類を揃えておく必要があります。