1.事業承継のパターン ~引退を意識したら考えましょう~
クリニックの事業承継の類型
後継者がいる場合も、いない場合も、引継ぎ(廃止や解散)が完了するまでには、想像以上に時間がかかります。
新規開業の場合には、お手伝いする我々のスケジュールと段取りだけで進めていくことができますが、事業承継の場合は、どのパターンにおいても数年の時間軸の中で捉えていただく必要性があります。
以下、後継者の有無による承継方法の相違を、医療法人と個人診療所とに分けて紹介いたします。
後継者がいない場合
医療法人
解散
法人が所有する残余財産を整理した上で解散します。
実務的には、各都道府県の担当部署、或いは所轄の保健所の指導の下で解散手続きに入ります。
清算のための税務申告と解散登記という手順を経なければなりませんので、手続きが全て完了するまでに数か月から1年程度は要します。
なお、事業所の廃止に伴い、医療機器等の廃棄処分も必要になります。
特に、エックス線装置は、事業の廃止届とは別に「エックス線の廃止届」も必要となりますので注意してください。
事業譲渡(M&A)
出資持ち分ありの法人の場合、出資金の譲渡で経営権を移すことができます。
医療法人の出資金は配当を禁止されていることもあり、その評価額は設立当初の何倍にもなっているケースが多々あります。
譲渡に関しては、基本的には時価取引になりますので、設立当初の額面金額と譲渡価額との差額に、所得税及び復興特別所得税が課税されます。
したがって、譲渡を実行する数年前から、税務対策を踏まえた譲渡スキームを検討しなければなりません。
個人診療所
事業所の廃止
管轄する保健所と厚生局に対して「事業の廃止届」を提出して終了となります。
医療法人と同様、エックス線の廃止届も必要です。
事業譲渡(M&A)
基本的には、事業用資産の譲渡という形を採ります。
確定申告書の「減価償却資産の明細」の資産リストに基づいて帳簿価額での取引が基本となります。
引き継いだ後に使用できないものもありますが、契約時においては「現状有姿(そのままの状態)」での取引が一般的となっております。
引継ぎ資産については、医療機器だけでなく、医薬品や衛生材料なども含めて契約当事者双方が立ち会って個別に確認した方が良いでしょう。
リスト化することで後々のトラブルをヘッジすることができます。
後継者がいる場合
医療法人
第三者への譲渡(M&A)と同様に、出資金評価を行った上で、時価によって取引します。